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2015-02-17

コーティング剤の製造と特許について

先月、トヨタさんが水素を燃料とする燃料電池関連の特許技術を、無償で提供するというニュースが話題を呼びました。
トヨタ自動車、燃料電池関連の特許実施権を無償で提供
http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/4663446

日本では技術が先行し過ぎて、結局ガラパゴスになっちゃった、なんてことが聞かれます。


広がりを世界的なものにするためには、仲間を増やすこと、タイミングをつかむこと、ビジネスとしてどうするのかなど、これらが課題となったものがたくさんありますね。

例えば、ガラパゴス携帯電話・ハイブリッド車・アナログハイビジョンテレビ・非接触ICカードなどなど。

報道されているように、トヨタさんが得意のハイブリッド車の場合は、ハイブリッド関連の特許によって、あまりにも「技術的な囲い込みをし過ぎた」と考えているようです。


このような独占的な囲い込みにより、自動車業界全体を見渡してみても、ハイブリッド車の普及が国内ではまあまあだが、海外ではいまひとつとなっている原因ではないかと捉えているわけです。

燃料電池特許戦略(自由化)の狙いは、トヨタを含めた自動車製造や、その他の業界である水素燃料製造から流通に至る、世界的な普及を促すことで、燃料電池自動車のガラパゴス化を避けることにあるようです。

ガラパゴス化して一番問題になるのは、普及が限られるため、部品調達から製造設備や保守運用などの様々なコストが高くなりがちになり、ひいては車本体のコストパフォーマンスにも影響してくる、ということではないでしょうか。

前置きが長くなりましたが、燃料電池関係特許の話題がありましたので、「コーティング剤の製造と特許」について触れてみたいと思います。



卵焼きやコカコーラの製造特許

特許の役割としては、みなさんは何が思い浮かばれるでしょうか。

仕事や勉強をしているなかで、日々アイデアや工夫を凝らして、少しでも良い製品やサービスが提供できないか。とか、こうすれば作業の効率が上がって、時間や費用が節約できるとか。他人が考えついていなくて、誰もそのようなことをしていなければ、自然法則を基にした「発明」となるわけですね。

その発明の証拠を世間一般に示して、その発明に対して、その独自性に異議を唱えられることなく、一定の考え方や基準を満たせば、特許出願者に対して発明の「特許権」という、特別な権利を与えられるわけです。

特許権を取得する際には、「特許明細書」として発明の内容を事細かに記載した書類を作成しなければなりません。新規性のある発明に対して特許権を与える代償として、特許明細書を公開しなければなりません。

前回記事のように「卵焼き」を例にしてみます。


仮の話です。
これまでに誰も実施したことがない新しい調理方法によって、実現性や再現性の高い卵焼きをつくり、それを2週間にわたり毎日一食づつ食べることで、それを実施した50%の人の身長が3%伸びる(2週間で身長170センチが175センチに!)※としましょう。

※.卵焼きを食べ続けたら巨人になってしまう、なんて突っ込まないでください。

そのような身長が高くなる「2週間で3%伸びる卵焼き」が発明できたなら、あなたならどうします?

その卵焼きの作り方や効果、既存の卵焼きとの違いを、こと細かに記載した「特許明細書」を書いて、特許庁に出願して公開データベースに登録されますか?

特許化する?わたしなら、そんなことはしません。

投資ファンドでも、ビル・ゲイツさんでも、孫正義さんでも、大銀行でもよいので、「2週間で3%伸びる卵焼き」を焼いて持参し、卵焼きを大量生産するための工場建設資金:100億円借り入れをお願いしにいきます。

その100億円で建設した工場にて、製法の機密性を完全に保ちながら、卵焼きを大量に作って大量に売るわけです。他には競争相手はおらず、身長が伸びる効果がテキメンで美味しく安全となれば、、、

卵焼き発明者であるわたしは、大成功者になれるわけです。
 

わたしが何かの間違いで、この卵焼き製法の特許権を取得したとしましょう。

特許権を得る目的としては、「2週間で3%伸びる卵焼き」を他者が真似して同じような卵焼きを製造販売できないようにしよう、とでもいうことになるのでしょうか。

特許として権利化できたあかつきには、他者から商売目的に販売される「身長が伸びる卵焼き」の製造販売の差し止めや、製造販売ライセンス契約をすることで、商業上は特許権の行使ができるかもしれません。

ところが、先に述べましたように、特許を権利化するには「必ず特許明細書を公開する」必要があります。公開することで、特許化する過程や特許化したのちに、身長が伸びる卵焼きの製造方法が、広く知られる可能性は100%となります。

特許化した卵焼きに物凄い効果があっても、せっかくの製法を発明したビジネス的な意義は、「ゼロに等しくなる」可能性が大きくなります。

なぜなら、卵焼きは一般家庭でも容易に作れるからです。いくら特許化した卵焼きであっても、各家庭で作られ家族が食べる卵焼きまで、特許権を行使することは事実上できませんよね。

さらに現実的には、商売での製造販売に対しても、多くのお弁当屋さんや仕出し屋さん、食堂にいたる事業者を相手取り、同時並行的に権利を行使することは、非常な困難が予想されます。

このようになってしまったら、いかなる事業者であっても商品価値は薄れ、「身長が伸びる卵焼き」は、それが「普通の卵焼き」になってしまうでしょう。

このような例としてよく挙げられるのが「コカコーラの製法」です。

GoogleやYahooで、「コカコーラ」「特許」というようなキーワードで検索してみてください。あちらこちらのウェブサイトに、コカコーラが特許を取得しない理由が述べられています。



コーティング剤の特許とは

コーティング剤特許の場合は、コカコーラのような事情に似ていることと、そうではないことがあります。

弊社が開発製造している硬化型コーティングの主原料には、「低分子シラン」を使用しています。このほかには、ガラスコーティング後のトリートメント剤・メンテナンス剤としての使用や、単独での使用も可能な「シリコーンレジン」を主原料としたコーティング剤があります。

これらの「低分子シラン」や「シリコーンレジン」と言った原料製造には、数多くの製法特許が取得され、それら複数の特許技術などを、複合的に応用した最先端技術を使用しているのです。

「低分子シラン」や「シリコーンレジン」の製造能力(技術・経験・設備・管理・流通などの能力)をもつ企業は、世界的にみてもごく一握りですし、化学業界を目指す学生なら、みんなが知っている有名大企業でもあります。他者の特許技術を真似したとしても判りますし、権利を主張し交渉することも難しくはないわけです。

弊社は前回のブログ記事のように、コーティング剤として使用する目的に応じた、様々な原料や添加剤を調合し、様々な製造プロセスを経て、安定した品質を適正なコスト・価格となるように、開発製品化をおこなっているメーカーです。

もしも弊社がコーティング剤の製法特許を取得したら、どのようになるのでしょうか。

残念ながら、「身長を伸ばす卵焼き」や「コカコーラ」のような、強大なインパクトを与えるようなことは大変困難ですので、真似されるかどうかは別にしても、このような作り方をしているのだな、ということは、公開されている特許明細書を読めば、成分や作り方が容易にわかってしまいます。

これをみた他者が、自前のコーティング剤改良や製造のヒントにされるかもしれませんし、喜んでよいのかわかりませんが、THエンゼルの製品にできるだけ近いものを作って売りたい、ということも可能性としてはあるわけです。

コカコーラはずいぶん昔からありますので、コカコーラ原料が特許を取得した最新技術のカタマリといことは恐らくないと思われます。現在のコーティング剤とコカコーラとは、この点では大きな違いがありますが、様々な主原料や添加剤を組み合わせて、どのように製造するのかについて、「門外不出」の秘密であることはコカコーラとまったく同じです。



コーティング剤特許の調べ方

お客さまから、特許を取得したと言われる他社様のコーティング剤に関して、ご質問をいただくことがあります。

特許として本当に権利化に至っているのか、特許出願のみで特許化を拒絶されていないか、特許明細書内容を読んで、コーティング剤としての品質や技術の内容に、新規性や効果がどの程度あるのか(ありそうなのか)などを調べることがあります。

その際に利用できるのが、下記の特許庁(経産省)所管である独立行政法人工業所有権情報・研修館の

ウェブサイト(下記URL)です。

特許出願の名称、出願番号や公開番号、出願者名などから検索することができます。

「特許化した」といわれる案件がありましたら、このサイトを利用して、特許化の状況や特許明細書の内容を検索し閲覧してみてください。

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage


特許出願されていれば凄いの?

発明を整理して特許明細書を書き、弁理士さんや特許事務所に出願を手伝ってもらい、特許庁に出願するには、費用や時間の面でも相応の負担が発生しますので、特許を出願することはそれだけでも大変な作業となります。

しかし、特許調査をしたり、特許明細書を書いた経験があればお気づきになられると思いますが、基準や条件を満たし、無事に特許化された場合でも、技術的にみればあまり意味を持たない特許も「ごまんとある」のです。

ちょっと失礼な話であることを承知で申し上げますと、特許明細書の作成や出願手続きを手助けしてくれる、弁理士さんや特許事務所は、過去の特許の内容や該当する分野の一般的な技術について比較調査し、特許出願するに足りる新規性があるかどうかについて十分に調べたり、手続き方法や明細書の書き方の助言や代行・代筆をしてくれます。

しかし、弁理士さんや特許庁は、他の特許に抵触していないか、新規性はあるのか、他者からの異議がないのかについては、厳格ですが、出願しようとする特許明細書内容の技術的・商業的重要性や価値には、ほとんど感知しません。

弁理士さんや特許庁は、特許出願内容の実現性などについて、全ての技術分野に精通しているわけではなく、出願された特許技術の効果が「ありそう」なのかや、出願者の言い分を聞いて、「信じるに足る」のかどうか程度の検分をしているに過ぎないのです。






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