フッ化物類の無機酸を使うと、「ウォータースポットとかイオンデポジットと呼ばれる、水シミを落としているつもりが、ガラスコーティングはおろか、車本体の塗装や金属、人体・環境にも深刻な悪影響を与える」というお話をしました。
この記事をお読みくださったAさんからご質問をいただきました。
それならば、「フッ化物類の無機酸にも耐えられるコーティングはできないのか?」というご質問です。
なぜ、そのようなことを聞かれているのか疑問に思い、失礼ながらこちらから以下のように逆質問をいたしました。
「フッ化物類の無機酸のような危険物は取り扱っていないはずなので、どのような意味があるのですか?」
Aさんのお考えは、「現実に、フッ化物類の無機酸を使ったウォータースポット除去剤があるのだから、それに負けないコーティングはできないものか」という、単純明快なものでした。
なるほど、「危険は承知の自己責任で」というようなことのようです。
このような考え方は全く賛同できませんし、あえて(不必要に)危険性の高いものを使うことに加担するような提案や、製品を製造することはできません。
このため、Aさんには申し訳ないのですが、「ご提案することはできません」と回答いたしました。
仕事上では、このような回答になるわけですが、個人的には少々興味があり、フッ化物類の無機酸に耐えうるようなコーティング剤はできないものかと、考えてみることにしました。
ここからは、私の頭の中の想像で書いているだけなので、まったく何の根拠も実績もありません。ここに記載していることを参考にしたり、何かを実施することは絶対におこなわないでください。
以下の記事は、フッ化水素酸を例にして書いておりますが、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウムは水と触れることで、フッ化水素が発生しますので、危険性や毒性は同等と考えてください。
フッ化物類の無機酸にも耐えられるコーティングを考えてみる
フッ化水素酸や、水と触れたフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物類の無機酸は、ガラス、鉄やアルミニウム等の金属、カルシウム、マグネシウム等の無機物や、皮膚、骨、プラスチック、ゴム、塗装、木材のような、ほとんどの有機物も激しく腐食させてしまいます。
ここで、ちょっと気になりませんか。
保管する容器は何を使うのだろう?
多くの物質に対して、腐食性をもつフッ化物類の無機酸を保管するのに、どのような材質の容器を使用するのでしょうか?
フッ化水素酸の保管は、主にフッ素樹脂(PTFE)素材の容器を使用します。
フッ化水素酸の濃度が低い(薄い)場合は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)やポリエチレンテレフタレート(PET)素材も容器として使用できるようです。
- PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂の一種)
- PP:ポリプロピレン
- PE:ポリエチレン
- PET:ポリエチレンテレフタレート
PTFEコーティング
現場施工が可能なコーティングとして実現性がないものとして、最初にあげられるものがPTFEです。PTFEによるコーティングは、フライパンや鍋などの「テフロン」が有名です。
このような、PTFEをコーティングする(定着させる)には、高温(300℃以上)で焼き付ける必要があります。このような高温で処理しますと、車の樹脂部品等への悪影響がありますので、PTFEコーティングは現実的ではありません。
PP/PE/PETコーティング
PP/PE/PETを現場施工でコーティングすることができるのでしょうか。
仮にPP/PE/PETをコーティングできたとしても、車の塗装よりも紫外線や熱、酸性雨や大気中の化学物質によって酸化劣化しやすいため、意味がないですし、むしろしないほうが良いでしょう。
そもそも、PP/PE/PETを現場施工できる高透明なコーティングは、イメージもわかないので、検討する余地がありません。
このため、少し視点を変えて、PP/PE/PETに近い組成のワックス剤から考えてみましょう。
蝋(ロウ)ワックス
PTFEやPP/PE/PETにような合成樹脂が発明されておらず、この世にない時代のフッ化水素酸の保管はどのようにしていたのでしょうか?
金属の鉛や白金はフッ化水素酸に対する耐力があるようです。長期間や濃度が高い場合は、鉛や白金を容器として使用していたようです。
フッ化水素酸の濃度が低い売位の保管や、一時的な保管にはガラス瓶の表面に蝋ワックスを塗布したような容器を使用していたそうです。
パラフィンや、蜜蝋・カルナバ(カルナウバ)等の蝋(ロウ)を原料とするワックスは、分子内の炭素原子の結合が鎖状になった有機化合物です。これらの天然樹脂は、上記のPP/PE/PETのような合成樹脂とも似た分子骨格となっております。
ただし、このような容器を使用していた昔は、フッ化水素酸による事故が多かったようですから、前例として考えることはしないほうが良いでしょう。
繰り返しになりますが、あくまでも「頭の中で想像してみるだけ」の話です。
仮に、上記のようなワックス類がある程度のフッ化物類の無機酸に耐力を持っていたとしても、車のコーティング剤としては、下記のように耐久性が弱く、ワックス自体が汚れの原因となるためおすすめできません。
- 太陽光(紫外線)や熱に弱く、酸化・劣化しやすい。
- 酸性雨(窒素酸化物等)やアルカリなど化学物質に弱く分解されやすい。
- 上記のような理由で分解・劣化したワックスが「汚れ」そのものとなる。
結論
ということで、PTFEやPP/PE/PETは現場施工コーティング剤としての実現性がなく、パラフィン、蜜蝋やカルナバ蝋等のワックスは、従来からわかっていることですが、酸性雨や紫外線・熱に弱く、それ以上でも以下でもありません。
そもそも、近くの化学工場の事故でもない限り、フッ化物類無機酸の雨は降らないですし、百害あって一利なしのフッ化物類の無機酸を使ったウォータースポットクリーナーや、イオンデポジット除去剤を使わなければ良いことです。
それから、この記事を読んで「白金(プラチナ)や鉛入りコーティング剤とか、カルナバロウ入りコーティング剤によって、フッ化物類の無機酸にも耐えるものができました!」とか言わないでください。
「何々入り」程度で、それらに耐えられるほどの物はできませんから(笑)。
くれぐれも、この記事を読んで「実験をしたり、ましてや誤った宣伝をしたり」そのようなことが無いようにしてください。
(参考)ウォータースポットに有効なのは酸性かアルカリ性か
http://coating.th-angel.com/2017/09/blog-post.html
(参考)フッ化水素酸にも負けないコーティング?【絶対に真似しないでください】
http://coating.th-angel.com/2017/10/blog-post_26.html
(参考)ウォータースポットの除去と対策
http://coating.th-angel.com/2016/10/waterspot.html
(参考)ウォータースポットの原因
http://coating.th-angel.com/2016/11/water-spot-cause.html
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