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車や建築コーティングに関するブログです。 ガラスコーティングやカーコーティング、ウォータースポット・イオンデポジット・水シミの除去と予防対策、撥水や疎水、親水に関する情報を提供します。
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2014-09-21
2014-09-14
コーティングの耐久性と光沢 ~膜厚と多層化リスク~
光沢・艶を出す。
コーティングに期待する重要な機能性です。
最近お客様より「光沢を出したいので膜厚をアップしたい、複数回ガラスコーティングを重ねることで、もっと光沢を出したい」と言うようなお声をいただくことが増えているように感じます。
光沢については、工業的な基準としてはJIS Z8105,Z8741,K5600-4-7(日本工業規格)などや、ISO 2813(国際標準化機構)などで用語・測定方法などが定義されています。
工業における定義や測定方法などは上記のようなものがあります。
実際のところ、あくまでも人がどのように感じるのか、というところが最終的な目標であるような気がします。しかし感性については、人それぞれによるところがありますので、「光沢」について脳科学などの生理学などでは、未だに興味の尽きない分野でもあるようです。
自動車ボディなどの光沢や艶と言った場合、光や表面に映る像が、鏡のようにハッキリ・クッキリと見えてかつ、その映り方に深みが感じられるのかといったことが求められるのではないでしょうか。
ハッキリ・クッキリを映り込むというのは、表面の平滑性が高く・乱反射が少ない表面であることが必要ですし、映り方の深みと言う点では膜厚や平滑性なども関連してくるのではないのでしょうか。もちろん被膜の透明度や屈折率が均一であることも重要です。
ガラスコーティングでは透明度が高く屈折率が均一であることは、概ねどのようなコーティングであっても第一条件だと思います。更なる光沢や艶の深みを追及する場合は、膜厚をアップさせることが考えられます。
今回は、ガラスコーティングの光沢と厚膜化・多層化について、耐久性とのトレードオフ関係を考えてみたいと思います。
塗装とガラスコーティングの現状
自動車の塗装技術は、言うまでもなく年々進化しております。
ご存知のようにメタリック塗装や、パール塗装のようなキラキラと輝く、金属粉やマイカ粉を混入した塗料を使用しますと、金属やマイカの腐食・酸化や飛散・ハガレなどを防ぎつつ、美しい光沢を出すために、クリア塗装を上塗りをする必要があります。
かつてはメタリックやパール紛体を含まずに、顔料などによる「色」を出すソリッド塗装は、クリア塗装を上塗りしない場合がありましたが、近年はソリッドカラー塗装でもクリアを上塗りしている新車が多くなっております。
ソリッドカラーを含めて新車塗装におけるクリア塗装は、概ね30μm以上の膜厚があるようです。
正直に申し上げますと、30μm以上のクリア塗装劣化がない新車においては、数μm程度のガラスコーティングをかけても、美観上のその違いを感じにくくなっていることは事実です。
塗装がフレッシュで美しい光沢をもつ新車に対するガラスコーティングは、光沢や艶の追及というよりも、今後車を使用していく中での微細な傷つきからの保護や、汚れの付着や酸化防止し、できるだけその美しさを維持させる意味合いが大きくなります。
塗装表面がフレッシュな新車の分厚いクリア塗装の上においては、ガラスコーティング施工部と未施工部を比較するような見方であれば、その違いが解ると思います。しかし、ガラスコーティングの膜厚を多少アップしたからと言って、その違いを際立たせることは難しいのではないでしょうか。
むしろ、むやみにガラスコーティングのように硬度が硬い皮膜を厚くしたり、多層化したりしますと、クラックやハガレを起こしやすくする原因となるため、本来の保護性に支障をきたし、光沢などの美観にも逆効果となるリスク要因となる可能性が高まります。
膜厚アップや多層化させる弊害
最近巷で、ガラスコーティングを塗り重ねて多層化することで、見かけの膜厚をアップするようなものが聞かれます。ガラスコーティングの膜厚を上げ過ぎたり、多層塗りする弊害の要因を考えてみましょう。
1.多層間の密着不良による剥離リスク
ガラスコーティングを何度も塗り重ねすることで、見かけの膜厚をアップさせることにより、光沢や艶を出すという発想があり、ガラスコーティングなどの硬化被膜を多層化するものがあるようです。
この多層化による弊害として間違いなく言えることは、塗り重ねるほど層間の界面が増えることによって、コーティング層間の密着部に「剥離リスク」を抱えた箇所がどんどん増えていきますので、コーティングが剥がれる確率が高まるというなのことです。
厄介なことに、施工直後は綺麗に密着しているように見える場合でも、コーティング施工後、日時が経過するにしたがって、様々な化学的物理的刺激や変化を受け、各層ごとの状態がわずかに変化や刺激が加わることで、剥離・ハガレが発生する可能性が高まることが考えられるのです。
【多層コーティングのイメージ】
----------------------------------
コーティング n層
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 3層
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 2層
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 1層
----------------------------------
塗装面
----------------------------------
2.膜厚アップによるクラック発生リスク
コーティングを塗り重ね多層化したガラスコーティングの界面の密着が、非常に強力で、完全な理想的なものであったとしましょう。その場合は、塗り重ねた回数が多いほど、分厚いガラスコーティングができる訳です。
このように、ガラスコーティングの厚みが増していきますと、ガラスは硬くて脆いために「応力=ストレス」の影響を受けやすくなっていきます。
例として、同じガラス材で作られた厚みの異なる「ガラス板」をみてみましょう。
同じ材質のガラス板でも厚みが薄い場合は、曲げ半径が小さくても割れにくいですが、分厚い場合は、同じ曲げ半径であっても割れてしまうことがあります。
身近な木材の例で言い替えてみます。薄い杉板(厚さ1mm)と、厚い杉板(10mm)に対して、曲げ半径50mmに曲げてみましょう。厚さ1mmの杉板は割れないかもしれませんが、10mmの杉板は割れてしまうかもしれません。
ガラスは硬くて脆く(脆性が高く)、粘りが少ない(靱性が低い)ものなので、少しの厚さの違いで割れやすさが大きく影響します。
ある板ガラスメーカーさんによる、同一材質の薄板ガラスの破壊が起きる曲げ半径データがあります。一部のデータを下記のようにご紹介します。
【破壊の起こる曲げ半径】
ガラスコーティングは、上記ガラス板に近い物性を持っていますのでコーティングの膜厚が増すほど破壊=クラックが起きやすくなります。
以前のブログ記事コーティングの硬度でも触れましたが、同じ膜厚の場合、ガラスコーティングの硬さが増すほどクラックが発生しやすくなります。このため弊社のガラスコーティング剤では、多少の柔軟性を持たせて、あえて鉛筆硬度9Hとはせずに7H前後に調整して、クラックの発生を防いでいます。
参考にガラスが割れるメカニズムと、厚さと応力の関係について解りやすく解説したページをご紹介いたします。
旭硝子株式会社【ガラスの豆知識VOL.21 ガラスの強さ】
https://www.asahiglassplaza.net/gp-pro/knowledge/vol21.html
余談になりますが、車の塗装のクリア塗装膜厚は30μm前後とガラスコーティングの数μm以下よりも一桁程度の膜厚があっても、クラックや剥離が生じない理由の一つには、鉛筆硬度3H前後とそれほど硬くせず、柔軟性を持たせていることが挙げられます。
膜厚を上げ過ぎたり、多層コーティングをした後、時間経過が少ない場合は被膜の経年変化がほとんどないため問題になりにくいのですが、時間が経ちますと車の振動・形状のひずみ、紫外線・酸素・熱・水分・化学物質などによってストレスが加わり、少しずつ化学的物理的変化が進行します。
このような応力=ストレスの蓄積は、眼には見えにくい細かなクラック(ひび割れ)や、多層塗り各層間の密着不具合が発生しやすくなり、美観上の濁りや部分的なハガレの原因となります。
ガラスコーティングとトリートメントの役割
前述のようにガラスコーティング目的は、塗装の微細な傷つきの防止、汚れの付着防止、塗装表面の劣化や酸化を防止することで、塗装本来の光沢や艶、鮮やかな色合いといった美しさを長く保つことであると考えます。
とはいえ、残念ながらガラスコーティングは万能ではありません。
ガラスコーティングは無機物汚れ(ウォータースポット・イオンデポジット)が固着しやすく、膜厚を上げることによる上記のような弊害を避ける意味で、光沢の深みが感じられにくいといった特性を持つため、弊社では下記のようなガラスコーティングを補うトリートメントの併用をオススメしております。
弊社トリートメントは硬化するタイプではなく、液体のまま表面に付着し続けるものです。トリートメントを塗りますと「濡れ」によって、表面の微細な凹凸を埋め、光の乱反射を抑える効果があります。これによりガラスコーティングの硬質な輝きを補い、文字通り濡れたような深みを与えることができます。
例えると、ピアノのような黒いツルツルの表面に水を垂らしますと、表面が濡れている間は、一層の深い滑らかな光沢になりますが、そのような濡れた状態を長期間維持できるようにしたものと考えてください。
このトリートメントは、基本的な分子骨格がガラスと近似した3次元ガラス骨格シリコーンレジンを使用しておりますので、このような濡れ効果が長期間持続し、時間経過とともに表面が多少荒れた場合も洗車をして拭き上げることによって、再び濡れたような美しい表面を回復することができます。
弊社のガラスコーティングとトリートメント(シリコーンレジン)は、原材料としては同じ材料を用いておりますので、上塗り界面の屈折率変化にともなう光沢の濁りも極小に抑え、ふたつの相乗効果によって最高のパフォーマンスが得られるようにしております。
(参考)フッ素コーティングとは(その4) ~透明度・光沢と屈折率について~
http://coating.th-angel.com/2014/08/blog-post.html
本ブログ運営:株式会社THエンゼル
コーティングに期待する重要な機能性です。
最近お客様より「光沢を出したいので膜厚をアップしたい、複数回ガラスコーティングを重ねることで、もっと光沢を出したい」と言うようなお声をいただくことが増えているように感じます。
光沢については、工業的な基準としてはJIS Z8105,Z8741,K5600-4-7(日本工業規格)などや、ISO 2813(国際標準化機構)などで用語・測定方法などが定義されています。
工業における定義や測定方法などは上記のようなものがあります。
実際のところ、あくまでも人がどのように感じるのか、というところが最終的な目標であるような気がします。しかし感性については、人それぞれによるところがありますので、「光沢」について脳科学などの生理学などでは、未だに興味の尽きない分野でもあるようです。
自動車ボディなどの光沢や艶と言った場合、光や表面に映る像が、鏡のようにハッキリ・クッキリと見えてかつ、その映り方に深みが感じられるのかといったことが求められるのではないでしょうか。
ハッキリ・クッキリを映り込むというのは、表面の平滑性が高く・乱反射が少ない表面であることが必要ですし、映り方の深みと言う点では膜厚や平滑性なども関連してくるのではないのでしょうか。もちろん被膜の透明度や屈折率が均一であることも重要です。
ガラスコーティングでは透明度が高く屈折率が均一であることは、概ねどのようなコーティングであっても第一条件だと思います。更なる光沢や艶の深みを追及する場合は、膜厚をアップさせることが考えられます。
今回は、ガラスコーティングの光沢と厚膜化・多層化について、耐久性とのトレードオフ関係を考えてみたいと思います。
塗装とガラスコーティングの現状
自動車の塗装技術は、言うまでもなく年々進化しております。
ご存知のようにメタリック塗装や、パール塗装のようなキラキラと輝く、金属粉やマイカ粉を混入した塗料を使用しますと、金属やマイカの腐食・酸化や飛散・ハガレなどを防ぎつつ、美しい光沢を出すために、クリア塗装を上塗りをする必要があります。
かつてはメタリックやパール紛体を含まずに、顔料などによる「色」を出すソリッド塗装は、クリア塗装を上塗りしない場合がありましたが、近年はソリッドカラー塗装でもクリアを上塗りしている新車が多くなっております。
ソリッドカラーを含めて新車塗装におけるクリア塗装は、概ね30μm以上の膜厚があるようです。
(参考)クルマの塗料・塗装方法の進化 日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/jamagazine_pdf/201503.pdf
正直に申し上げますと、30μm以上のクリア塗装劣化がない新車においては、数μm程度のガラスコーティングをかけても、美観上のその違いを感じにくくなっていることは事実です。
塗装がフレッシュで美しい光沢をもつ新車に対するガラスコーティングは、光沢や艶の追及というよりも、今後車を使用していく中での微細な傷つきからの保護や、汚れの付着や酸化防止し、できるだけその美しさを維持させる意味合いが大きくなります。
塗装表面がフレッシュな新車の分厚いクリア塗装の上においては、ガラスコーティング施工部と未施工部を比較するような見方であれば、その違いが解ると思います。しかし、ガラスコーティングの膜厚を多少アップしたからと言って、その違いを際立たせることは難しいのではないでしょうか。
むしろ、むやみにガラスコーティングのように硬度が硬い皮膜を厚くしたり、多層化したりしますと、クラックやハガレを起こしやすくする原因となるため、本来の保護性に支障をきたし、光沢などの美観にも逆効果となるリスク要因となる可能性が高まります。
膜厚アップや多層化させる弊害
最近巷で、ガラスコーティングを塗り重ねて多層化することで、見かけの膜厚をアップするようなものが聞かれます。ガラスコーティングの膜厚を上げ過ぎたり、多層塗りする弊害の要因を考えてみましょう。
1.多層間の密着不良による剥離リスク
ガラスコーティングを何度も塗り重ねすることで、見かけの膜厚をアップさせることにより、光沢や艶を出すという発想があり、ガラスコーティングなどの硬化被膜を多層化するものがあるようです。
この多層化による弊害として間違いなく言えることは、塗り重ねるほど層間の界面が増えることによって、コーティング層間の密着部に「剥離リスク」を抱えた箇所がどんどん増えていきますので、コーティングが剥がれる確率が高まるというなのことです。
厄介なことに、施工直後は綺麗に密着しているように見える場合でも、コーティング施工後、日時が経過するにしたがって、様々な化学的物理的刺激や変化を受け、各層ごとの状態がわずかに変化や刺激が加わることで、剥離・ハガレが発生する可能性が高まることが考えられるのです。
【多層コーティングのイメージ】
----------------------------------
コーティング n層
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
・
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 3層
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 2層
---------------------------------- ←剥離リスク
コーティング 1層
----------------------------------
塗装面
----------------------------------
2.膜厚アップによるクラック発生リスク
コーティングを塗り重ね多層化したガラスコーティングの界面の密着が、非常に強力で、完全な理想的なものであったとしましょう。その場合は、塗り重ねた回数が多いほど、分厚いガラスコーティングができる訳です。
このように、ガラスコーティングの厚みが増していきますと、ガラスは硬くて脆いために「応力=ストレス」の影響を受けやすくなっていきます。
例として、同じガラス材で作られた厚みの異なる「ガラス板」をみてみましょう。
同じ材質のガラス板でも厚みが薄い場合は、曲げ半径が小さくても割れにくいですが、分厚い場合は、同じ曲げ半径であっても割れてしまうことがあります。
身近な木材の例で言い替えてみます。薄い杉板(厚さ1mm)と、厚い杉板(10mm)に対して、曲げ半径50mmに曲げてみましょう。厚さ1mmの杉板は割れないかもしれませんが、10mmの杉板は割れてしまうかもしれません。
ガラスは硬くて脆く(脆性が高く)、粘りが少ない(靱性が低い)ものなので、少しの厚さの違いで割れやすさが大きく影響します。
ある板ガラスメーカーさんによる、同一材質の薄板ガラスの破壊が起きる曲げ半径データがあります。一部のデータを下記のようにご紹介します。
【破壊の起こる曲げ半径】
- ガラス板厚0.50mmの場合:曲げ半径350mm
- ガラス板厚0.10mmの場合:曲げ半径 70mm
- ガラス板厚0.05mmの場合:曲げ半径 40mm
ガラスコーティングは、上記ガラス板に近い物性を持っていますのでコーティングの膜厚が増すほど破壊=クラックが起きやすくなります。
以前のブログ記事コーティングの硬度でも触れましたが、同じ膜厚の場合、ガラスコーティングの硬さが増すほどクラックが発生しやすくなります。このため弊社のガラスコーティング剤では、多少の柔軟性を持たせて、あえて鉛筆硬度9Hとはせずに7H前後に調整して、クラックの発生を防いでいます。
参考にガラスが割れるメカニズムと、厚さと応力の関係について解りやすく解説したページをご紹介いたします。
旭硝子株式会社【ガラスの豆知識VOL.21 ガラスの強さ】
https://www.asahiglassplaza.net/gp-pro/knowledge/vol21.html
余談になりますが、車の塗装のクリア塗装膜厚は30μm前後とガラスコーティングの数μm以下よりも一桁程度の膜厚があっても、クラックや剥離が生じない理由の一つには、鉛筆硬度3H前後とそれほど硬くせず、柔軟性を持たせていることが挙げられます。
膜厚を上げ過ぎたり、多層コーティングをした後、時間経過が少ない場合は被膜の経年変化がほとんどないため問題になりにくいのですが、時間が経ちますと車の振動・形状のひずみ、紫外線・酸素・熱・水分・化学物質などによってストレスが加わり、少しずつ化学的物理的変化が進行します。
このような応力=ストレスの蓄積は、眼には見えにくい細かなクラック(ひび割れ)や、多層塗り各層間の密着不具合が発生しやすくなり、美観上の濁りや部分的なハガレの原因となります。
ガラスコーティングとトリートメントの役割
前述のようにガラスコーティング目的は、塗装の微細な傷つきの防止、汚れの付着防止、塗装表面の劣化や酸化を防止することで、塗装本来の光沢や艶、鮮やかな色合いといった美しさを長く保つことであると考えます。
とはいえ、残念ながらガラスコーティングは万能ではありません。
ガラスコーティングは無機物汚れ(ウォータースポット・イオンデポジット)が固着しやすく、膜厚を上げることによる上記のような弊害を避ける意味で、光沢の深みが感じられにくいといった特性を持つため、弊社では下記のようなガラスコーティングを補うトリートメントの併用をオススメしております。
弊社トリートメントは硬化するタイプではなく、液体のまま表面に付着し続けるものです。トリートメントを塗りますと「濡れ」によって、表面の微細な凹凸を埋め、光の乱反射を抑える効果があります。これによりガラスコーティングの硬質な輝きを補い、文字通り濡れたような深みを与えることができます。
例えると、ピアノのような黒いツルツルの表面に水を垂らしますと、表面が濡れている間は、一層の深い滑らかな光沢になりますが、そのような濡れた状態を長期間維持できるようにしたものと考えてください。
このトリートメントは、基本的な分子骨格がガラスと近似した3次元ガラス骨格シリコーンレジンを使用しておりますので、このような濡れ効果が長期間持続し、時間経過とともに表面が多少荒れた場合も洗車をして拭き上げることによって、再び濡れたような美しい表面を回復することができます。
弊社のガラスコーティングとトリートメント(シリコーンレジン)は、原材料としては同じ材料を用いておりますので、上塗り界面の屈折率変化にともなう光沢の濁りも極小に抑え、ふたつの相乗効果によって最高のパフォーマンスが得られるようにしております。
(参考)フッ素コーティングとは(その4) ~透明度・光沢と屈折率について~
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2014-09-09
紫外線によるコーティング劣化について
紫外線による劣化(老化)
あの女優さんは最近劣化してるね。などと大変失礼だと思うのですが、人の場合は歳を取るにつれて、皮膚のシミやシワが増えたり張りが無くなり、全体的にお肉が下がってくるなどの外見的な変化が見て取れる状態、つまりは老化したことを言っている場合が多いような気がします。
自動車ボディコーティング被膜についても、人と同じように時間の経過とともに美観や、保護機能が衰えていくことがあります。人の老化になぞらえてコーティング劣化の具体的な現象を書き出してみました。
人の場合は、細胞が死んでは生まれるを繰り返す再生能力がありますが、新陳代謝により細胞が再生できる場合においても、日光に含まれている紫外線の影響を受けて「老化:劣化」していきます。
一方のコーティング被膜では、人の皮膚のような再生能力はありませんので、例外なく時間の経過とともに徐々に劣化していきます。
それでは、コーティングにおける劣化とはどのようにして起きるのでしょうか。
コーティング被膜の劣化は、紫外線のほかに温度上昇や酸化、大気や雨に含まれる物質による化学的な作用や物理的な擦過・摩耗などが原因として考えられます。
今回は、コーティング被膜を構成する物質との関連性が、数字で捉えやすい電磁波=紫外線を例として、劣化のメカニズムについてまとめてみたいと思います。
私たちは紫外線がコーティング被膜や、人の皮膚を劣化・老化させる要因であることはよく知っていますが、どうして紫外線にはそのようなパワーがあるのでしょうか?
電磁波:紫外線(光子)のエネルギー
紫外線を含む光は、電波や放射線と同じ電磁波の一種です。
電磁波は波長の違いによって分類がなされています。波長の長い(周波数が低い)ほうから、電波~光~放射線となっています。
更に光を細分化しますと、波長の長い方から、赤外線~可視光線~紫外線となります。
お気づきのように、一般的に波長が短い電磁波ほど、人体や物にとっては劣化を早める影響力が高いことが言えます。光よりも波長の短い放射線は言うに及ばず、光の中でも波長の短い紫外線はそれにあたります。
波長の長い電磁波よりも波長の短い電磁波のほうが、劣化を早める理由とはどのようなことなのでしょう?
答えはズバリ、電磁波が持つエネルギーが、物質を形づくる原子間の結合を断ち切ることで、物質を分解し別の物質に変質させるからなのです。
もう少しくわしく言いますと、電磁波は光子としてのエネルギーを持っており、高校の物理で勉強したアインシュタインの「光量子説」や、「プランク定数」あるいは「プランク法則」を思い出してみましょう。
光子の持つエネルギーは、波長に反比例する。
つまり、電磁波の周波数が高い=波長が短いほど、電磁波(光子)の持つエネルギーが大きくなることを表しています。もう一度電磁波の持つエネルギーの大きさを整理してみましょう。
紫外線の光子エネルギー
このように、光に分類される電磁波のなかで、最も高いエネルギーを持つ紫外線とは、どの程度のエネルギーを持っていて、その光子エネルギーが物質に与える影響はどの程度のものなのでしょうか?
絶え間なく太陽から降り注ぐ日光には、人間の眼によって感知できる可視光線や、感知できない赤外線や紫外線があります。赤外線や可視光線よりも紫外線のエネルギーが大きいことは解りました。
それでは、紫外線のもつエネルギーを具体的な数字でみてみましょう。
紫外線の中でも波長が短く、エネルギーが強い紫外線UVCは、地球の大気により吸収され地上にはほとんど届きません。
地上に降り注ぐ可視光線の中で最も波長の短い「紫」と、紫外線の中で最も波長の短い「UVA」、この境界あたりの波長:400nmの光子エネルギーは、約3eV=70kcal/mol程度であり、UVBの波長:300nmの光子エネルギーは、約4eV=92kcal/mol程度です。
大気によって遮ることのできない、地上に降り注ぐ最も高エネルギーの紫外線(UVBとUVCの境界辺り)光子エネルギーは、最大でおよそ100kcal/mol程度であると考えられます。
光子エネルギーの影響
原発事故や原子爆弾による放射線被ばくなど特殊な事象を除いて、通常の環境において人体や車などが晒される電磁波エネルギーで最大のものは、太陽光に含まれる紫外線(UVA~UVB:約70~100kcal/mol)であることが解りました。
さて、太陽光として照射された紫外線の光子エネルギーは、物質に対してどのような影響を与えるのでしょうか?
その前に、物質の基本的な構成を思い出してみましょう。
様々な種類の原子と原子が電子を共有することで結合が起こり、結合した原子核の種類と電子の構成によって、物質の種類や性質が決まる大きな要因です。人の皮膚やコーティングの被膜も、複数の原子核同士が共有する電子の構成によって形づくられた物質であるわけです。
物質に電波や光などの電磁波(光子)が照射され光子が衝突すると、物質の原子あるいは分子を構成する電子が、原子核を周回する元の軌道から、外側の軌道への移動(電子遷移)が起こることがあります。
このような電子遷移に伴い、様々な化学的変化が起きるのですが、分子の中で共有結合している原子間結合エネルギーを、電磁波の光子エネルギーが上回ると、分子内の原子間結合の開裂、すなわち「結合が切れる」という現象が発生します。
このように一旦共有結合が切れますと、それぞれの原子はその時の条件に即して再び電子を共有する結合をしようとしますので、多くの場合では結合が切れる前の物質とは別の物質に変化します。
フロンガスと紫外線によるオゾン層破壊
太陽光に含まれる紫外線の影響によって、共有結合が切れて再び結合する例として、近年問題になっている環境破壊の例をみましょう。
人の手によって作られたフロンガス(クロロフルオロカーボン類:CFC)が成層圏に拡がり、このフロンガスが紫外線によって分解され、塩素(Cl)を発生させることで、塩素が触媒となって化学反応を起こすことで、地球大気のオゾン層を破壊してゆきます。
オゾン層が破壊されますと、これまでオゾン層がある程度バリヤしてきた紫外線UVBが、これまでよりも強いエネルギーを保ったまま地上まで到達し易くなり、人を含む生態系の遺伝子などに悪影響を与える原因とななっています。
成層圏に達したフロン:CFC-11(トリクロロフルオロメタン)を構成している、フッ素(F)や炭素(C)と塩素(Cl)が、紫外線の光子エネルギーによって炭素と塩素間の結合が切れて、元来不安定なオゾン分子(O3)フロン由来の塩素(Cl)とが、新たに結合することで、一酸化塩素分子や酸素分子に生まれ変わり、オゾンが破壊(化学変化)されてしまうわけです。
これはまさに、紫外線などの電磁波による分解劣化の地球規模での例になります。
この例をもう少しくわしく見てみましょう。
フロン:CFC-11(分子式CCl3F)は、原子価4の炭素(C)を中心として、炭素から伸びる一つの手にフッ素(F)が結合し、残りの三つの手にはそれぞれ塩素(Cl)が結合しています。
フロン:CFC-11分子の原子間結合エネルギーを調べてみましょう。
一方のフロンを分解する紫外線UVB(波長280~315nm)の光子エネルギーは、下記のようになります。
このようにUVBの光子(電磁波)エネルギーは、炭素と塩素の結合エネルギーよりも大きいため、C-Clの結合を断ち切って(開裂)しまうわけです。
オゾンと同じように私たちの身の回りにあるものは、このような原理で紫外線など電磁波の影響を受け続けているわけですが、特に波長の短い光であるために光子エネルギーが大きい紫外線は、物質の化学変化(開裂と結合)を促進させるパワーが大きいと言うわけです。
紫外線に晒される太陽電池
ここで身近な例として、常時太陽光にさらされる太陽電池パネルを例として紫外線の影響をみてみたいと思います。
以前の当ブログhttp://coating.th-angel.com/2013/10/30.htmlでも触れましたが、およそ30年前に設置された奈良県・壷阪寺に設置された「シャープ製太陽光発電パネル」は、現在でも良好な発電効率で現役稼働中です。
壷阪寺の太陽電池セル封止材としてシリコーンが使われ、優れた耐候性・耐久性を保つことによって、発電効率を維持しながら稼働中であるとのことです。もしも、シリコーン以外の透明な封止材が使われていたならば、どのようなことが起きるのでしょうか。
シリコーン樹脂以外の樹脂の多くは炭素を中心とした分子構造です。たとえば透明性の高いプラスチックの中で、アクリルなどと比較して紫外線による化学変化が少ないとされるポリカーボネートでの紫外線劣化は下記のように考えられます。
ポリカーボネートの基本的な分子骨格は、炭素(C)と炭素あるいは、炭素(C)と酸素(O)によって構成されています。
このような分子骨格のポリカーボネートに、太陽光(紫外線)が照射されますと、炭素同士の結合エネルギー C-C:83kcal/mol炭素(C)や、炭素(C)と酸素(O)間の結合エネルギー C-O:86kcal/molは、紫外線UVA~UVB帯域の光子エネルギー:80~100kcal/mol程度よりも小さいため、原子間結合が切断されることによって劣化するわけです。
ポリカーボネートは、割れにくいことや可視光線の透明性が高いことから、前述のように比較的紫外線による劣化も少ないため、クルマのヘッドランプレンズや、カーポートの屋根材などに広く使用されています。
しかしご存知のように、クルマのヘッドランプに使用されているポリカーボネートは、時間の経過とともに黄色く変色(黄変)します。これは紫外線と酸素によって分解・劣化が進行し、分子構造が変化することで可視光線の吸収スペクトルが変化(黄変)するためです。
仮にポリカーボネートを太陽電池セルの封止材として使用した場合は、ヘッドランプのように数年の使用で黄変してしまうようでは、太陽光が太陽電池セルに十分に届かずに発電効率が下がってしまうことが予想されます。
太陽電池セル封止材の現状と将来
実際の太陽電池の封止材としてはポリカーボネートではなく、柔らかく透明性が高いEVA(エチレン・ビニル・アセテート)が広く使われています。
EVAは、樹脂の中では紫外線劣化し難いものですが、炭素と酸素による分子骨格であるため、長年の使用により透明性が落ちて発電効率に影響する原因のひとつと考えられています。
前述の奈良県・壷阪寺の太陽光発電パネルは、現在主流のEVA封止材ではなく、より劣化が少ないシリコーンが使われています。
現在市場に出ている多くの太陽電池パネルは、製造コスト低減などの理由でEVAが使用されており、シリコーンの使用が見送られているようです。しかし最近は製造コストの改善がみられる可能性が出てきたため、太陽電池セルの封止材として、EVAよりも紫外線に強いシリコーンが再び注目されているようです。
紫外線に負けないシリコーンコーティング・ガラスコーティング
お気づきのようにシリコーンが、ポリカーボネートやEVA(エチレン・ビニル・アセテート)よりも紫外線による劣化が少ない理由は、ケイ素(Si)を分子骨格としているためです。
各物質の結合エネルギーと、紫外線の光子エネルギーを比較してみましょう。
紫外線(UVA~UVB)の光子エネルギー
ポリカーボネートやEVAなどの基本骨格・原子間結合エネルギー
シリコーンやガラスの基本骨格・原子間結合エネルギー
このように、ポリカーボネートやEVAの分子骨格は、地上に到達するUVA・UVB紫外線の光子エネルギーよりも、分子内の結合エネルギーが小さいため切断され劣化変質します。
一方のシリコーンの分子骨格は、ガラスと同様にケイ素を中心としたSi-O結合(ケイ素化合物)であるために、UVA・UVBの光子エネルギーを上回りますので、長期間に渡り劣化や変質が起こりにくいのです。
UVB : 102 kcal/mol < Si-O : 110 kcal/mol
上記のような関係から、Si-O分子骨格であるシリコーンレジンコーティングや、ガラスコーティングは、紫外線UVA/UVBに負けないコーティングであるわけです。
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あの女優さんは最近劣化してるね。などと大変失礼だと思うのですが、人の場合は歳を取るにつれて、皮膚のシミやシワが増えたり張りが無くなり、全体的にお肉が下がってくるなどの外見的な変化が見て取れる状態、つまりは老化したことを言っている場合が多いような気がします。
自動車ボディコーティング被膜についても、人と同じように時間の経過とともに美観や、保護機能が衰えていくことがあります。人の老化になぞらえてコーティング劣化の具体的な現象を書き出してみました。
1.撥水性・疎水性が弱まってきた。
2.汚れがつきやすくなった。
3.洗車しても汚れが落ちにくくなった。
4.洗車しても光沢が落ちてきた。
人の場合は、細胞が死んでは生まれるを繰り返す再生能力がありますが、新陳代謝により細胞が再生できる場合においても、日光に含まれている紫外線の影響を受けて「老化:劣化」していきます。
一方のコーティング被膜では、人の皮膚のような再生能力はありませんので、例外なく時間の経過とともに徐々に劣化していきます。
それでは、コーティングにおける劣化とはどのようにして起きるのでしょうか。
コーティング被膜の劣化は、紫外線のほかに温度上昇や酸化、大気や雨に含まれる物質による化学的な作用や物理的な擦過・摩耗などが原因として考えられます。
今回は、コーティング被膜を構成する物質との関連性が、数字で捉えやすい電磁波=紫外線を例として、劣化のメカニズムについてまとめてみたいと思います。
私たちは紫外線がコーティング被膜や、人の皮膚を劣化・老化させる要因であることはよく知っていますが、どうして紫外線にはそのようなパワーがあるのでしょうか?
電磁波:紫外線(光子)のエネルギー
紫外線を含む光は、電波や放射線と同じ電磁波の一種です。
電磁波は波長の違いによって分類がなされています。波長の長い(周波数が低い)ほうから、電波~光~放射線となっています。
更に光を細分化しますと、波長の長い方から、赤外線~可視光線~紫外線となります。
お気づきのように、一般的に波長が短い電磁波ほど、人体や物にとっては劣化を早める影響力が高いことが言えます。光よりも波長の短い放射線は言うに及ばず、光の中でも波長の短い紫外線はそれにあたります。
波長の長い電磁波よりも波長の短い電磁波のほうが、劣化を早める理由とはどのようなことなのでしょう?
答えはズバリ、電磁波が持つエネルギーが、物質を形づくる原子間の結合を断ち切ることで、物質を分解し別の物質に変質させるからなのです。
もう少しくわしく言いますと、電磁波は光子としてのエネルギーを持っており、高校の物理で勉強したアインシュタインの「光量子説」や、「プランク定数」あるいは「プランク法則」を思い出してみましょう。
光子の持つエネルギーは、波長に反比例する。
E=hc/λ
E: 光子1個のエネルギー
h: プランク定数 6.626×10^-34 [J・s]
c: 光速 2.998×10^8 [m/s]
λ: 電磁波の波長 10^-9 [m]
例えば、波長172nmの紫外線の場合、光子1個当りのエネルギーは1.15×10^-18J(7.22eV)、モル当りでは、167kcal/molです。
つまり、電磁波の周波数が高い=波長が短いほど、電磁波(光子)の持つエネルギーが大きくなることを表しています。もう一度電磁波の持つエネルギーの大きさを整理してみましょう。
電磁波 :電波<光<放射線
電波 :長波<中波<短波<超短波<マイクロ波
光 :赤外線<可視光線<紫外線
放射線 :X線<γ線
紫外線の光子エネルギー
このように、光に分類される電磁波のなかで、最も高いエネルギーを持つ紫外線とは、どの程度のエネルギーを持っていて、その光子エネルギーが物質に与える影響はどの程度のものなのでしょうか?
絶え間なく太陽から降り注ぐ日光には、人間の眼によって感知できる可視光線や、感知できない赤外線や紫外線があります。赤外線や可視光線よりも紫外線のエネルギーが大きいことは解りました。
それでは、紫外線のもつエネルギーを具体的な数字でみてみましょう。
紫外線の中でも波長が短く、エネルギーが強い紫外線UVCは、地球の大気により吸収され地上にはほとんど届きません。
地上に降り注ぐ可視光線の中で最も波長の短い「紫」と、紫外線の中で最も波長の短い「UVA」、この境界あたりの波長:400nmの光子エネルギーは、約3eV=70kcal/mol程度であり、UVBの波長:300nmの光子エネルギーは、約4eV=92kcal/mol程度です。
大気によって遮ることのできない、地上に降り注ぐ最も高エネルギーの紫外線(UVBとUVCの境界辺り)光子エネルギーは、最大でおよそ100kcal/mol程度であると考えられます。
光子エネルギーの影響
原発事故や原子爆弾による放射線被ばくなど特殊な事象を除いて、通常の環境において人体や車などが晒される電磁波エネルギーで最大のものは、太陽光に含まれる紫外線(UVA~UVB:約70~100kcal/mol)であることが解りました。
さて、太陽光として照射された紫外線の光子エネルギーは、物質に対してどのような影響を与えるのでしょうか?
その前に、物質の基本的な構成を思い出してみましょう。
様々な種類の原子と原子が電子を共有することで結合が起こり、結合した原子核の種類と電子の構成によって、物質の種類や性質が決まる大きな要因です。人の皮膚やコーティングの被膜も、複数の原子核同士が共有する電子の構成によって形づくられた物質であるわけです。
物質に電波や光などの電磁波(光子)が照射され光子が衝突すると、物質の原子あるいは分子を構成する電子が、原子核を周回する元の軌道から、外側の軌道への移動(電子遷移)が起こることがあります。
このような電子遷移に伴い、様々な化学的変化が起きるのですが、分子の中で共有結合している原子間結合エネルギーを、電磁波の光子エネルギーが上回ると、分子内の原子間結合の開裂、すなわち「結合が切れる」という現象が発生します。
このように一旦共有結合が切れますと、それぞれの原子はその時の条件に即して再び電子を共有する結合をしようとしますので、多くの場合では結合が切れる前の物質とは別の物質に変化します。
フロンガスと紫外線によるオゾン層破壊
太陽光に含まれる紫外線の影響によって、共有結合が切れて再び結合する例として、近年問題になっている環境破壊の例をみましょう。
人の手によって作られたフロンガス(クロロフルオロカーボン類:CFC)が成層圏に拡がり、このフロンガスが紫外線によって分解され、塩素(Cl)を発生させることで、塩素が触媒となって化学反応を起こすことで、地球大気のオゾン層を破壊してゆきます。
オゾン層が破壊されますと、これまでオゾン層がある程度バリヤしてきた紫外線UVBが、これまでよりも強いエネルギーを保ったまま地上まで到達し易くなり、人を含む生態系の遺伝子などに悪影響を与える原因とななっています。
(参考)気象庁:フロンによるオゾン層の破壊
http://www.data.jma.go.jp/gmd/env/ozonehp/3-25ozone_depletion.html
成層圏に達したフロン:CFC-11(トリクロロフルオロメタン)を構成している、フッ素(F)や炭素(C)と塩素(Cl)が、紫外線の光子エネルギーによって炭素と塩素間の結合が切れて、元来不安定なオゾン分子(O3)フロン由来の塩素(Cl)とが、新たに結合することで、一酸化塩素分子や酸素分子に生まれ変わり、オゾンが破壊(化学変化)されてしまうわけです。
これはまさに、紫外線などの電磁波による分解劣化の地球規模での例になります。
この例をもう少しくわしく見てみましょう。
フロン:CFC-11(分子式CCl3F)は、原子価4の炭素(C)を中心として、炭素から伸びる一つの手にフッ素(F)が結合し、残りの三つの手にはそれぞれ塩素(Cl)が結合しています。
フロン:CFC-11分子の原子間結合エネルギーを調べてみましょう。
・炭素とフッ素 (C-F):116 kcal/mol
・炭素と塩素 (C-Cl): 81 kcal/mol
一方のフロンを分解する紫外線UVB(波長280~315nm)の光子エネルギーは、下記のようになります。
・UVB(280~315nm):91~102 kcal/mol
このようにUVBの光子(電磁波)エネルギーは、炭素と塩素の結合エネルギーよりも大きいため、C-Clの結合を断ち切って(開裂)しまうわけです。
オゾンと同じように私たちの身の回りにあるものは、このような原理で紫外線など電磁波の影響を受け続けているわけですが、特に波長の短い光であるために光子エネルギーが大きい紫外線は、物質の化学変化(開裂と結合)を促進させるパワーが大きいと言うわけです。
紫外線に晒される太陽電池
ここで身近な例として、常時太陽光にさらされる太陽電池パネルを例として紫外線の影響をみてみたいと思います。
以前の当ブログhttp://coating.th-angel.com/2013/10/30.htmlでも触れましたが、およそ30年前に設置された奈良県・壷阪寺に設置された「シャープ製太陽光発電パネル」は、現在でも良好な発電効率で現役稼働中です。
壷阪寺の太陽電池セル封止材としてシリコーンが使われ、優れた耐候性・耐久性を保つことによって、発電効率を維持しながら稼働中であるとのことです。もしも、シリコーン以外の透明な封止材が使われていたならば、どのようなことが起きるのでしょうか。
シリコーン樹脂以外の樹脂の多くは炭素を中心とした分子構造です。たとえば透明性の高いプラスチックの中で、アクリルなどと比較して紫外線による化学変化が少ないとされるポリカーボネートでの紫外線劣化は下記のように考えられます。
ポリカーボネートの基本的な分子骨格は、炭素(C)と炭素あるいは、炭素(C)と酸素(O)によって構成されています。
カーボネート基 (-O-(C=O)-O-)
このような分子骨格のポリカーボネートに、太陽光(紫外線)が照射されますと、炭素同士の結合エネルギー C-C:83kcal/mol炭素(C)や、炭素(C)と酸素(O)間の結合エネルギー C-O:86kcal/molは、紫外線UVA~UVB帯域の光子エネルギー:80~100kcal/mol程度よりも小さいため、原子間結合が切断されることによって劣化するわけです。
ポリカーボネートは、割れにくいことや可視光線の透明性が高いことから、前述のように比較的紫外線による劣化も少ないため、クルマのヘッドランプレンズや、カーポートの屋根材などに広く使用されています。
しかしご存知のように、クルマのヘッドランプに使用されているポリカーボネートは、時間の経過とともに黄色く変色(黄変)します。これは紫外線と酸素によって分解・劣化が進行し、分子構造が変化することで可視光線の吸収スペクトルが変化(黄変)するためです。
仮にポリカーボネートを太陽電池セルの封止材として使用した場合は、ヘッドランプのように数年の使用で黄変してしまうようでは、太陽光が太陽電池セルに十分に届かずに発電効率が下がってしまうことが予想されます。
太陽電池セル封止材の現状と将来
実際の太陽電池の封止材としてはポリカーボネートではなく、柔らかく透明性が高いEVA(エチレン・ビニル・アセテート)が広く使われています。
EVAは、樹脂の中では紫外線劣化し難いものですが、炭素と酸素による分子骨格であるため、長年の使用により透明性が落ちて発電効率に影響する原因のひとつと考えられています。
前述の奈良県・壷阪寺の太陽光発電パネルは、現在主流のEVA封止材ではなく、より劣化が少ないシリコーンが使われています。
現在市場に出ている多くの太陽電池パネルは、製造コスト低減などの理由でEVAが使用されており、シリコーンの使用が見送られているようです。しかし最近は製造コストの改善がみられる可能性が出てきたため、太陽電池セルの封止材として、EVAよりも紫外線に強いシリコーンが再び注目されているようです。
紫外線に負けないシリコーンコーティング・ガラスコーティング
お気づきのようにシリコーンが、ポリカーボネートやEVA(エチレン・ビニル・アセテート)よりも紫外線による劣化が少ない理由は、ケイ素(Si)を分子骨格としているためです。
各物質の結合エネルギーと、紫外線の光子エネルギーを比較してみましょう。
紫外線(UVA~UVB)の光子エネルギー
・UVA(315~380nm) :75~ 91 kcal/mol
・UVB(280~315nm) :91~102 kcal/mol
ポリカーボネートやEVAなどの基本骨格・原子間結合エネルギー
・炭素と炭素 (C-C) :83 kcal/mol
・炭素と酸素 (C-O) :86 kcal/mol
シリコーンやガラスの基本骨格・原子間結合エネルギー
・ケイ素と酸素 (Si-O):110 kcal/mol
このように、ポリカーボネートやEVAの分子骨格は、地上に到達するUVA・UVB紫外線の光子エネルギーよりも、分子内の結合エネルギーが小さいため切断され劣化変質します。
一方のシリコーンの分子骨格は、ガラスと同様にケイ素を中心としたSi-O結合(ケイ素化合物)であるために、UVA・UVBの光子エネルギーを上回りますので、長期間に渡り劣化や変質が起こりにくいのです。
UVB : 102 kcal/mol < Si-O : 110 kcal/mol
上記のような関係から、Si-O分子骨格であるシリコーンレジンコーティングや、ガラスコーティングは、紫外線UVA/UVBに負けないコーティングであるわけです。
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