フッ素コーティングの透明度や光沢についての指摘です。
そもそも、コーティングにおける光沢の良さや透明度の高さとは何なのでしょうか?
光沢が良く透明度が高いコーティング表面とは、科学的には光の散乱が少ない均質な状態の被膜に覆われていることが絶対的な条件となります。
たとえば、光が散乱することで濁ったように透明度が下がる例を考えてみましょう。
水の陽炎(かげろう)
透明な耐熱ガラスコップに、きれいな全く濁りのない冷たい水を入れてください。この水を観察しますと、非常に透明度の高い状態であることが確認できます。ここに熱いお湯、たとえば80℃の全く濁りのない熱水を静かに少量注ぎ込みます。
するとどうでしょう、モヤモヤと濁ったような半透明の液体が混じり合うのが見えます。コップにある冷水と、後から注ぎ込んだお湯のもとは同じ蛇口からの水であってもです。
このユラユラと陽炎のように見える濁りは、冷たい水と熱水のわずかな(光に対する)屈折率の差によるものと考えられます。全く同じ物質であっても温度差による程度であっても、透明な見え方に影響がでてくるほど微妙なものであることがわかります。水とお湯が混じり合って、温度差がなくなるとモヤモヤの陽炎のようなものは見えなくなります。
大型水槽のアクリル積層板
違った例を見てみましょう。大型の水槽を有する最近の水族館です。
サンゴ礁の海をダイナミックに再現することで人気の高い「沖縄美ら海水族館」の超大型水槽で採用されている「高さ8.2m、幅22.5m、厚さ60cmの透明度の高い一枚ガラス板のように見えるアクリルパネル」これは、厚さ4cmのアクリル板の表面を精密に磨き、このアクリル板と同じ(光の)屈折率であるアクリル接着剤を使って、15枚も繰り返し貼り合わせることで、厚さ60cmの透明度の高いアクリルパネルを構成しています。
そうですね。透明に見え、美しい光沢を得るためには、光が散乱しないようにする必要があるのです。光の散乱が発生する原因は、屈折率の異なるものが混じり合うことがその大きな要因となります。
コーティングにおける透明度
コーティングを構成する物質によって、それぞれ固有の屈折率を有しています。水とお湯のように同じ物質でも温度差によって若干の屈折率の差が生じますと、濁ったように見えてしまいます。水を例にしますと15℃の水に、65℃のお湯(温度差50℃)が混ざった場合の屈折率差はわずかに0.005です。
物質の屈折率
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水 :1.33※
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フッ素樹脂 :1.3~1.4程度
シリコーン樹脂 :1.4~1.5程度
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アクリル樹脂 :1.5前後
ガラス :1.4~1.8程度(不純物や非晶質構造などによる)
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※.水の場合、温度1℃の上昇に対して0.0001程度低下する。他の物質も温度変化とともに屈折率が変化する。
このように同じ物質でも、たったの0.005の屈折率差でもこのような陽炎にようなことが起きます。
フッ素コーティングの場合は、以前下記の記事にてご紹介しましたように、フッ素樹脂単体では、クルマの塗装表面に密着しないために、シリコーン樹脂のバインダと一体にして、塗装表面と密着させる必要があります。以下のようにシリコーン樹脂とフッ素樹脂の屈折率は異なります。
(参考記事) フッ素コーティングとは(その2) ~ケイ素によるフッ素の密着について~
フッ素コーティングの透明度・光沢感を上げることを意識して、シリコーン樹脂とフッ素樹脂の屈折率を近づける努力がなされ、近年では以前よりも透明度の高いフッ素コーティングが提供できるようになっています。しかし水とお湯の例でもわかるように、非常に小さな屈折率の揺らぎがありますと、微妙な光沢感・透明感への影響があることも事実です。
このような理由から、ピュアなシリコーン樹脂のみによるコーティングに比較して、シリコーン樹脂とのハイブリッドであるフッ素コーティングの透明感が、わずかに劣る原因がここにあるのです。
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