2015-11-23

コーティング剤における有機溶剤の特性と危険性

有機溶剤とは


まずは「溶剤=溶媒」とは何でしょうか?
溶剤は文字の通り溶かす液剤です。身近なものでは「水(H2O)」は溶剤(溶媒)ですね。水は溶質である塩や砂糖を溶かしこみます。

純粋な水は、有機物を含まないので有機溶剤ではありません。

溶剤=溶媒とは、溶質を溶かしている液体のことです。
この場合の溶質と溶剤(溶媒)の関係を身近な例としてご紹介します。

  • 塩水の「溶質」は、塩です。
  • 塩水の「溶媒(溶剤)」は、水です。
  • 塩水は、塩が水に溶けた「溶液」です。

ペンキの代表として、油性ウレタン塗料を例にしてみましょう。

  • 油性ウレタン塗料の溶質は、ウレタン樹脂や顔料です。
  • 油性ウレタン塗料の溶媒(溶剤)は、シンナー(キシレン、トルエン、ミネラルスピリットなど)いわゆる有機溶剤です。
  • 油性ウレタン塗料は、ウレタン樹脂や顔料がシンナーに溶けた溶液です。

有機溶剤ついて、東北大学のホームページに下記のような特徴が掲載されています。

出典:東北大学、流体科学研究所技術室・安全講習会、安全な実験作業のために・・・・、有機溶剤を知ろう!
http://www.ifs.tohoku.ac.jp/tech/resources/data/youzai-use.pdf



【有機溶剤の特徴】
有機溶剤の性状には、次のような特徴があります。
1.非常に揮発し易い。
2.沸点がはっきりしている。
3.特有の臭いがある。
4.液性は、中性を示す。
5.水より軽く、水に混ざりにくい。(例外的に混ざりやすいものもある)
6.蒸気は、空気よりも重い。
7.多くのものは、引火性がある。
8.機械油などの油脂類、塗料、樹脂、ゴム、動物・植物の脂肪などをよく溶かす。
これらの特徴は、それぞれの有機溶剤によって強弱がある。また、使用目的によって、これらの溶剤を混ぜ合わせると変化に富んだ新しい性状の溶剤を作ることもできる。


有機溶剤の特徴として、特に注目すべき点は、上記の8項のように、塗料や樹脂、動物の脂肪などを良く溶かすということです。

つまり、良くも悪くも有機溶剤は塗料や樹脂を溶かすので、コーティング剤やクリーナーとして、下記のような役割として使用されるのです。

また、動物の脂肪を溶かすということは、人の細胞組織を壊しながら浸透するため、呼吸器や皮膚、眼などの直接さらされる部分から体内に浸透して、健康に悪影響を及ぼすことになるわけです。

 

有機溶剤(シンナー)の役割

有機溶剤(シンナー類)を使用したガラスコーティングやクリーナーを使用することで、劣化して悪い状態の塗装表面に対 して、一見すると一時的に症状が改善されたように感じられるかもしれませんが、その後の塗装劣化を早めてしまうことがあり事態をさらに悪化させる危険性を はらんでいます。

コーティング剤におけるシンナーの役割

(1)うすめ液として
液体の状態でも、従来型の高分子物質で構成されるコーティング剤は、コーティング液剤としての塗りやすさや、乾燥硬化の仕方を調整するための「うすめ液」として使用されます。

(2)密着剤として
特に無機ガラスコーティングは、有機物である塗装との密着力が弱い(有機物と無機物はくっつきにくい)ため、シンナーの力を借りて塗装表面を溶かすことで、なかば無理やり密着させるものがあります。

シンナー臭の接着剤と同じ原理によって、塗装と無機コーティングを密着させます。

 

クリーナーにおけるシンナーの役割


(1)汚れ溶解による洗浄剤として
油性汚れについては、油性の溶剤を使うことで汚れが溶けることで、拭き取ったり洗い流したりすることができるため洗浄剤として使用されます。

(2)塗装溶解による洗浄剤として
塗装に固着した頑固な汚れ(ウォータースポットやイオンデポジット※)を落とすために、塗装(土台)そのものを溶解して、汚れと一緒に塗装表面を拭い去るような少々荒っぽいやり方に使用されます。

一般的な車の塗装は、一番上に無色透明なクリアコートをしているため、布に色が着かないので気づきにくいのかもしれません。外国車などで塗装コストを抑えたソリッド塗装の場合は、布に色が着く可能性が高いわけです。

※.ウォータースポットやイオンデポジットといった無機汚れ自体は、有機溶剤では溶解できません。これらの無機汚れと塗装両方を溶解できるのは、非常に危険なフッ素系化合物による無機酸だけです。


有機溶剤の人体影響

すべての有機溶剤は有害なのでしょうか?

いちにちの仕事を終えて飲むお酒には、アルコールが含まれています。
アルコールも有機溶剤の一種です。

飲用する種類のアルコールは、ご存知のようにエチルアルコール=エタノールが使用されています。

エチルアルコールは、肝臓で分解されてアセトアルデヒドや酢酸が生成されます。このアセトアルデヒドが血液中に混じることで悪酔いを引き起こします。

肝臓の処理能力が追いつかずに、慢性的にアセトアルデヒドが過多になると、肝硬変を起こしたり最悪は肝癌の原因になるといわれています。

エチルアルコールの場合は、肝臓の処理能力範囲内であれば、上記のような怖い病気をあまり恐れなくてもよい、マイルドな作用を持っているわけです。

しかし、メチルアルコール=メタノールの場合は、少量でも短時間に強い悪影響を及ぼします。

メチルアルコールを飲んだ場合は、肝臓でホルムアルデヒドやギ酸を生成します。

シックハウス症候群の原因物質として有名なホルムアルデヒドやギ酸は、人体に非常に有害です。神経系統などに異常を来たし、失明したり死亡するような急激な症状を引き起こします。

このように、一言で有機溶剤と言っても物質によって影響の仕方は大きく異なります。

 

有機溶剤の塗装への影響

車の塗装に対する有機溶剤の影響は、どのように考えればよいのでしょうか?

ここでは、溶質としての塗装に対する有機溶剤の関係をみてみましょう。

「溶解パラメータ」という言葉をご存知でしょうか?

溶解パラメータとは、SP値(Solubility Parameter)として数字で表されるものです。
このSP値が近い溶質と溶媒は、溶け合いやすいことを表しています。


私たちは「似た者同士は良く溶け合うという」という経験をしています。溶け合わないものの例に水と油があります。

水のSP値:23
油のSP値:7(ガソリンの場合)

自動車塗装の一番外側であるクリア塗装(溶質)の材質は、アクリル樹脂やウレタン樹脂などです。これらのSP値は下記のようになります。


クリア塗装(アクリル樹脂・ウレタン樹脂)
SP値:8.5~10



特に、石油系のような揮発性の臭いがする場合は、お使いのコーティング剤やクリーナー類、ウォータースポット・イオンデポジット除去剤の成分表示を調べてみるとよいでしょう。

下記のような3項~11項のような成分表示があると、車の塗装へのダメージが懸念されるものと考えることができます。

代表的な有機溶剤のSP値は下記のようになります。

1.ガソリン:7
2.イソパラフィン:7~7.5
↓↓↓特にクリア塗装のSP値に近いもの↓↓↓
3.酢酸ブチル:8.5
4.エチルベンゼン:8.8
5.キシレン:8.8
6.トルエン:8.8
7.酢酸エチル:9.0
8.ベンゼン:9.2
9.アセトン:9.9

10.ターペン(テレビン油):松から得られる精油であり漆などの塗料を溶かす。
11.ミネラルスピリット:ベンゼンやキシレンなどの混合物であり塗料を溶かす。
↑↑↑特にクリア塗装のSP値に近いもの↑↑↑
12.IPA:11.5
(IPAの別名:2-プロパノール、イソプロピルアルコール)
13.エタノール:12.7
14.メタノール:14~15



このように、有機溶剤の中でもクリア塗装のSP値に近い有機溶剤(上記3項~11項)は、短時間の接触で塗装に悪影響を及ぼす可能性があります。






(参考) 
VOCフリーガラスコーティング?
http://coating.th-angel.com/2015/11/vocvoc.html

コーティングにおける有機溶剤の特性と危険性
http://coating.th-angel.com/2015/11/blog-post.html

有機溶剤にご注意 ~コーティング剤への使用目的とリスク~
http://coating.th-angel.com/2015/10/blog-post.html

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