2014-09-14

コーティングの耐久性と光沢 ~膜厚と多層化リスク~

光沢・艶を出す。
コーティングに期待する重要な機能性です。

最近お客様より「光沢を出したいので膜厚をアップしたい、複数回ガラスコーティングを重ねることで、もっと光沢を出したい」と言うようなお声をいただくことが増えているように感じます。

光沢については、工業的な基準としてはJIS Z8105,Z8741,K5600-4-7(日本工業規格)などや、ISO 2813(国際標準化機構)などで用語・測定方法などが定義されています。
工業における定義や測定方法などは上記のようなものがあります。

実際のところ、あくまでも人がどのように感じるのか、というところが最終的な目標であるような気がします。しかし感性については、人それぞれによるところがありますので、「光沢」について脳科学などの生理学などでは、未だに興味の尽きない分野でもあるようです。

自動車ボディなどの光沢や艶と言った場合、光や表面に映る像が、鏡のようにハッキリ・クッキリと見えてかつ、その映り方に深みが感じられるのかといったことが求められるのではないでしょうか。

ハッキリ・クッキリを映り込むというのは、表面の平滑性が高く・乱反射が少ない表面であることが必要ですし、映り方の深みと言う点では膜厚や平滑性なども関連してくるのではないのでしょうか。もちろん被膜の透明度や屈折率が均一であることも重要です。

ガラスコーティングでは透明度が高く屈折率が均一であることは、概ねどのようなコーティングであっても第一条件だと思います。更なる光沢や艶の深みを追及する場合は、膜厚をアップさせることが考えられます。


今回は、ガラスコーティングの光沢と厚膜化・多層化について、耐久性とのトレードオフ関係を考えてみたいと思います。


塗装とガラスコーティングの現状

自動車の塗装技術は、言うまでもなく年々進化しております。

ご存知のようにメタリック塗装や、パール塗装のようなキラキラと輝く、金属粉やマイカ粉を混入した塗料を使用しますと、金属やマイカの腐食・酸化や飛散・ハガレなどを防ぎつつ、美しい光沢を出すために、クリア塗装を上塗りをする必要があります。

かつてはメタリックやパール紛体を含まずに、顔料などによる「色」を出すソリッド塗装は、クリア塗装を上塗りしない場合がありましたが、近年はソリッドカラー塗装でもクリアを上塗りしている新車が多くなっております。

ソリッドカラーを含めて新車塗装におけるクリア塗装は、概ね30μm以上の膜厚があるようです。


(参考)クルマの塗料・塗装方法の進化 日本自動車工業会
http://www.jama.or.jp/lib/jamagazine/jamagazine_pdf/201503.pdf

正直に申し上げますと、30μm以上のクリア塗装劣化がない新車においては、数μm程度のガラスコーティングをかけても、美観上のその違いを感じにくくなっていることは事実です。

塗装がフレッシュで美しい光沢をもつ新車に対するガラスコーティングは、光沢や艶の追及というよりも、今後車を使用していく中での微細な傷つきからの保護や、汚れの付着や酸化防止し、できるだけその美しさを維持させる意味合いが大きくなります。

塗装表面がフレッシュな新車の分厚いクリア塗装の上においては、ガラスコーティング施工部と未施工部を比較するような見方であれば、その違いが解ると思います。しかし、ガラスコーティングの膜厚を多少アップしたからと言って、その違いを際立たせることは難しいのではないでしょうか。

むしろ、むやみにガラスコーティングのように硬度が硬い皮膜を厚くしたり、多層化したりしますと、クラックやハガレを起こしやすくする原因となるため、本来の保護性に支障をきたし、光沢などの美観にも逆効果となるリスク要因となる可能性が高まります。



膜厚アップや多層化させる弊害

最近巷で、ガラスコーティングを塗り重ねて多層化することで、見かけの膜厚をアップするようなものが聞かれます。ガラスコーティングの膜厚を上げ過ぎたり、多層塗りする弊害の要因を考えてみましょう。


1.多層間の密着不良による剥離リスク

ガラスコーティングを何度も塗り重ねすることで、見かけの膜厚をアップさせることにより、光沢や艶を出すという発想があり、ガラスコーティングなどの硬化被膜を多層化するものがあるようです。

この多層化による弊害として間違いなく言えることは、塗り重ねるほど層間の界面が増えることによって、コーティング層間の密着部に「剥離リスク」を抱えた箇所がどんどん増えていきますので、コーティングが剥がれる確率が高まるというなのことです。

厄介なことに、施工直後は綺麗に密着しているように見える場合でも、コーティング施工後、日時が経過するにしたがって、様々な化学的物理的刺激や変化を受け、各層ごとの状態がわずかに変化や刺激が加わることで、剥離・ハガレが発生する可能性が高まることが考えられるのです。

【多層コーティングのイメージ】
----------------------------------
  コーティング n層
---------------------------------- ←剥離リスク
      ・
---------------------------------- ←剥離リスク
      ・
---------------------------------- ←剥離リスク
      ・
---------------------------------- ←剥離リスク
  コーティング 3層
---------------------------------- ←剥離リスク
  コーティング 2層
---------------------------------- ←剥離リスク
  コーティング 1層
----------------------------------

     塗装面

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2.膜厚アップによるクラック発生リスク

コーティングを塗り重ね多層化したガラスコーティングの界面の密着が、非常に強力で、完全な理想的なものであったとしましょう。その場合は、塗り重ねた回数が多いほど、分厚いガラスコーティングができる訳です。

このように、ガラスコーティングの厚みが増していきますと、ガラスは硬くて脆いために「応力=ストレス」の影響を受けやすくなっていきます。

例として、同じガラス材で作られた厚みの異なる「ガラス板」をみてみましょう。
 
同じ材質のガラス板でも厚みが薄い場合は、曲げ半径が小さくても割れにくいですが、分厚い場合は、同じ曲げ半径であっても割れてしまうことがあります。

身近な木材の例で言い替えてみます。薄い杉板(厚さ1mm)と、厚い杉板(10mm)に対して、曲げ半径50mmに曲げてみましょう。厚さ1mmの杉板は割れないかもしれませんが、10mmの杉板は割れてしまうかもしれません。

ガラスは硬くて脆く(脆性が高く)、粘りが少ない(靱性が低い)ものなので、少しの厚さの違いで割れやすさが大きく影響します。

ある板ガラスメーカーさんによる、同一材質の薄板ガラスの破壊が起きる曲げ半径データがあります。一部のデータを下記のようにご紹介します。

【破壊の起こる曲げ半径】

  • ガラス板厚0.50mmの場合:曲げ半径350mm
  • ガラス板厚0.10mmの場合:曲げ半径 70mm
  • ガラス板厚0.05mmの場合:曲げ半径 40mm


ガラスコーティングは、上記ガラス板に近い物性を持っていますのでコーティングの膜厚が増すほど破壊=クラックが起きやすくなります。

以前のブログ記事コーティングの硬度でも触れましたが、同じ膜厚の場合、ガラスコーティングの硬さが増すほどクラックが発生しやすくなります。このため弊社のガラスコーティング剤では、多少の柔軟性を持たせて、あえて鉛筆硬度9Hとはせずに7H前後に調整して、クラックの発生を防いでいます。

参考にガラスが割れるメカニズムと、厚さと応力の関係について解りやすく解説したページをご紹介いたします。
旭硝子株式会社【ガラスの豆知識VOL.21 ガラスの強さ】
https://www.asahiglassplaza.net/gp-pro/knowledge/vol21.html

余談になりますが、車の塗装のクリア塗装膜厚は30μm前後とガラスコーティングの数μm以下よりも一桁程度の膜厚があっても、クラックや剥離が生じない理由の一つには、鉛筆硬度3H前後とそれほど硬くせず、柔軟性を持たせていることが挙げられます。

膜厚を上げ過ぎたり、多層コーティングをした後、時間経過が少ない場合は被膜の経年変化がほとんどないため問題になりにくいのですが、時間が経ちますと車の振動・形状のひずみ、紫外線・酸素・熱・水分・化学物質などによってストレスが加わり、少しずつ化学的物理的変化が進行します。

このような応力=ストレスの蓄積は、眼には見えにくい細かなクラック(ひび割れ)や、多層塗り各層間の密着不具合が発生しやすくなり、美観上の濁りや部分的なハガレの原因となります。



ガラスコーティングとトリートメントの役割

前述のようにガラスコーティング目的は、塗装の微細な傷つきの防止、汚れの付着防止、塗装表面の劣化や酸化を防止することで、塗装本来の光沢や艶、鮮やかな色合いといった美しさを長く保つことであると考えます。

とはいえ、残念ながらガラスコーティングは万能ではありません。

ガラスコーティングは無機物汚れ(ウォータースポット・イオンデポジット)が固着しやすく、膜厚を上げることによる上記のような弊害を避ける意味で、光沢の深みが感じられにくいといった特性を持つため、弊社では下記のようなガラスコーティングを補うトリートメントの併用をオススメしております。

弊社トリートメントは硬化するタイプではなく、液体のまま表面に付着し続けるものです。トリートメントを塗りますと「濡れ」によって、表面の微細な凹凸を埋め、光の乱反射を抑える効果があります。これによりガラスコーティングの硬質な輝きを補い、文字通り濡れたような深みを与えることができます。

例えると、ピアノのような黒いツルツルの表面に水を垂らしますと、表面が濡れている間は、一層の深い滑らかな光沢になりますが、そのような濡れた状態を長期間維持できるようにしたものと考えてください。

このトリートメントは、基本的な分子骨格がガラスと近似した3次元ガラス骨格シリコーンレジンを使用しておりますので、このような濡れ効果が長期間持続し、時間経過とともに表面が多少荒れた場合も洗車をして拭き上げることによって、再び濡れたような美しい表面を回復することができます。

弊社のガラスコーティングとトリートメント(シリコーンレジン)は、原材料としては同じ材料を用いておりますので、上塗り界面の屈折率変化にともなう光沢の濁りも極小に抑え、ふたつの相乗効果によって最高のパフォーマンスが得られるようにしております。

(参考)フッ素コーティングとは(その4) ~透明度・光沢と屈折率について~
http://coating.th-angel.com/2014/08/blog-post.html





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