コーティング業界の一部では「無機質の最強バリア」みたいな文句が、何とかの一つ覚えのように宣伝されています。
いつものように結論から言います。
ポリシラザンなど無機ガラスコーティングは、塗装のような有機物に直接コーティング施工をした場合、密着力(耐久性)が弱いためコーティング被膜として残存できる時間が短いのです。
その弱さは、無機ガラスコーティングが塗装表面に密着するメカニズムによるものです。
無機ガラスコーティングの密着メカニズム
ポリシラザンなどの無機ガラスコーティングは、ガラスコーティングの主成分であるケイ素(Si)が、塗装表面の水酸基(-OH)やカルボキシル基(-COOH)の酸素(O)とSi-O結合することで、塗装に密着するという説明がなされています。この説明は、金属やシリコンウェハ表面などの無機基材表面の場合に無機ガラスコーティングをおこなう説明としては納得できます。
なぜならば、新鮮で汚染されていない無機物である金属や半導体原料のシリコンウェハような表面には、水酸基(-OH)やカルボキシル基(-COOH)が高密度に表出しているからです。
このような無機表面に対して、ペルヒドロポリシラザン(パーヒドロポリシラザン)のような単純な無機分子構造のケイ素(Si)は、水酸基(-OH)の酸素(O)と結合する密度が高くなり、この結果、ガラスコーティングとしての密着力が高まります。
(参考)ポリシラザンについて ~ガラスコーティング剤として~
塗装は有機物です
ところが自動車塗装、プラスチック部品やホイールの表面は有機物です。自動車塗装は、アクリルやウレタン、メラミン・エナメルなどの有機樹脂が主な成分です。このような塗装の有機物表面に存在する水酸基(-OH)やカルボキシル基(-COOH)は、低い密度でしか存在できません。
プラスチックはもちろんのこと、ホイール※1も表面は有機物に覆われていますので、無機ガラスコーティングが高密度に結合し密着する部分は、自動車の場合、窓ガラスとドアミラーくらいしかないのです。
※1.アルミやマグネシウムや鉄などのホイールの表面は、錆(腐食)の発生を抑えるために無色透明塗装や色付き塗装が施されています。
無機の窓ガラスに無機ガラスコーティングをしても意味がありませんね。ですから、無機ガラスコーティングは、自動車に対しては直接施工しても残存性の低い弱いコーティングとなるのです。
塗装(有機物)に対する無機ガラスコーティングの密着性
それでは、塗装のような有機物に対する無機ガラスコーティングの密着性は、どのようになるのでしょうか?大手化成品製造会社による、無機基材と有機基材に対するペルヒドロポリシラザンの密着力データ(耐水性・耐久性)が手元にあります。
ポリシラザンにより無機ガラスコーティング(ペルヒドロポリシラザン・パーヒドロポリシラザン)を施した有機プラスチックへの密着度を測定するため、お湯(80℃の水※2)を連続的に流しかけ無機ガラスコーティングが消滅するまでの時間を測定した試験結果です。
※2.水は温度上昇にともない強い溶解力・洗浄力を示すことから、熱水を使用することで、耐水性試験時間を短縮(加速試験)させることができます。
A.有機プラスチックに、直接無機コーティングした場合
80℃耐水性:4時間
B.有機プラスチックに、有機-無機改質処理※4を行ったうえで、無機コーティングした場合
80℃耐水性:400時間
C.無機シリコンウェハに、直接無機コーティングした場合
80℃耐水性:1000時間
※4.有機-無機改質処理とは、有機表面と無機表面の接着性を高めるために、ケイ素(Si)を主剤とした、有機物と無機物の接着性を高める「無機有機ハイブリッド化合物」を下地処理コーティングすることです。
無機コーティングの有機物への密着・耐水・耐久性は100分の1以下
いかがでしょうか、上記A.のように有機物であるプラスチックに直接ポリシラザンによる無機コーティングを行った場合に比較して、B.有機物と無機物の接着性を高める有機-無機改質処理を施すことによって100倍の耐水性を実現することができます。C.のシリコンウェハのような無機基材に対する無機コーティングは、A.に対して250倍の耐水性があるということになります。
このことは、逆に言いますと無機コーティングであるペルヒドロポリシラザンは、プラスチックや塗装などの有機物に対しての密着性が、無機物基材へのコーティングと比較して桁違いに不十分であることが言えるわけです。
つまり、従来自動車ボディ塗装ガラスコーティングとして普及し、無機コーティングが最高と言われていたのは、実用化当初の半導体シリコンウェハ(無機物)に対する、コーティング性能がそのままに流用されたものと考えられるのです。
有機物である塗装に対して無機ガラスコーティングを行うには、有機物と無機物の密着性を高めるために、有機-無機改質処理剤による下地処理コーティングをしなければ、本来の性能や機能を発揮することができないのです。
くわしくは「ガラスコーティング剤の密着について」をご覧ください。
(参考)無機コーティングが密着する理由 ~アクアミカの場合~
(参考)
無機ガラスコーティングは温度変化に弱いhttp://coating.th-angel.com/2015/02/blog-post_22.html
無機有機ハイブリッドガラスコーティング
このようなことから化学分野全般において、塗装やプラスチックなどの有機物の表面を改質して機能性を高めるガラスコーティングは、自動車に限らずこの十年余り「無機有機ハイブリッド化」がどんどん進められてきたわけです。別の機会に、ガラスコーティングの無機有機ハイブリッド化について説明させていただきます。
(参考)ガラスコーティング種類と特質 ~特性・機能比較~
(参考)ガラスコーティングにおける無機溶剤って何ですか?
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