近頃コーティングの状態を表す言葉で、滑水性あるいは滑水って聞きます。
滑水性コーティングを施したボディ塗装表面あるいは、窓ガラス表面っていったいどういう状態なのでしょうか?
その前に、得意の「滑水」という言葉について調べてみましょう。
広辞苑によると滑水とは「水上を滑走すること」とあります。
Google先生に「滑水とは」と問い合わせ(検索)すると自動車のコーティング関連のウェブサイトが上位にたくさんリストされます。
どうやら滑水とは「水上スキーで水の上を滑走するような状態をイメージした」コーティング業界でよく用いられる独特の言葉であるようです。
かと言って世の中(コーティング業界)に明確な定義はないようなので、コーティング剤製造者として滑水について整理してみたいと思います。
傾斜角と滑水性について
改めてコーティングにおける「滑水とは」、どのような状態を言うのでしょうか。仮に傾斜のない平面で、風もない室内にあるボディ塗装表面や窓ガラス表面を想定します。この場合、付着した水は接触角(撥水)の大小はあるにしても、水は静止した状態で、その場に留まります。
この状態から、平面の一方を少しづつ持ち上げていきますと、付着した水はツーと上から下へ流れ落ちます。このように水が流れ落ち始める傾斜角が小さいほど「滑水性が良い」としましょう。
このほかに、「水が落ちる速度」や、「水が落ちる加速度」なども「滑水の特性」を表すものと考えられますが、複雑になるのでここでは「水が流れ落ち始める傾斜角」に着目したいと思います。
実はこの滑水性と言われるものは、研究者の間では「動的な撥水性」とも呼ばれているのですが、「重力による仕事と液体の表面自由エネルギー変化の関係」として、この動的な撥水現象を説明できる理論は完成されているわけではありません。
しかし、仮説として「動的な撥水性:滑水性」は、下記のような表面の状態に左右されるのではないかと考えられています。
1.表面の物理的な均一さ
2.表面の化学的な均一さ
3.表面の有機官能基の種類・密度など化学的構造
4.その他の要因?
「表面の物理的・化学的均一さ」について
前回記事の疎水性の中でも触れましたが、表面に微細な凹凸がありますと、撥水は高まりますが、水の進行を妨げるためにスムーズな水の流れに影響を与えることがあります。動的な撥水性すなわち「滑水性」とは、塗装表面や窓ガラス表面の均一さが整っていること、つまり塗装や窓ガラス表面の凸凹の少ない:平滑性が高いほど滑水性が良くなる。と言えるのではないでしょうか。
ここで、他社(弊社とは関係ありません)さんのウェブサイトに解りやすい動画の実験例※がありましたのでリンクを張らせていただきます。
※.BGM音が出ますのでご注意ください!
動画出典:株式会社 三愛プラント工業さん
実験動画は、同じ金属板(動画前半:ステンレス、後半:アルミ)の研磨あり・研磨なしよって表面の平滑性を変化させた上の水の流れ具合を比較しています。
同じ金属板上に恐らく同量の水を垂らして、傾斜角を少しづつ変化させているように見えます。
この動画では研磨により、表面の平滑性が向上し、同じ金属板でも滑水性が全く違ってくることが一目瞭然です。
滑水性を高める第一条件は、上記のように「表面の物理的・化学的均一さ」すなわち「平滑性高める」ことなのです。
それでは「表面の有機官能基の種類・密度など化学的構造」についてはどのように考えればよいのでしょうか。
「表面の有機官能基の種類・密度など化学的構造」について
結論から申し上げますと、表面の有機官能基の種類・密度など化学的構造が、滑水の良し悪しに何らかの影響があるのではないか?という、未だにはっきりしない状況なのです。定性的かつ具体的に、どのようにすれば滑水性が向上するのかは研究者の間でも今後の課題となっています。
それでは仕方がないので、私なりに仮説をたててみます。
「表面の有機官能基の種類・密度など化学的構造」これは個体表面の撥水(疎水)的あるいは、親水的性質とも見ることができると考えます。
親水性あるいは親水性に近づくということは、水の凝集力よりも塗装や窓ガラスの表面自由エネルギーが高いということですから、どちらかというと水の流れが阻害される方向になると考えられます。
一方、撥水性を高めるためのロータス効果(ハス効果)のような、微細突起との因果関係についても、微細な凹凸が際立ってきますと、液面の進行が阻害される(ピン止め効果とも言う)方向になるとも考えられます。
経験的な話しでの補足となりますが、撥水性あるいは親水性との因果関係で申し上げますと、撥水性が高いよりも撥水性がやや低く、親水性よりもやや撥水が高い状態が最も滑水性が良好であるようです。
滑水性が良いボディ塗装や窓ガラスの表面の条件は、下記のようにまとめたいと思います。
1.できるだけ平滑であること
2.撥水性が高過ぎないことかつ、親水性ではないこと
「平滑性を良くする」について
それでは自動車の塗装面や窓ガラス面の平滑性を高めるには、どのように考えればよいのでしょうか。平滑性を高めるということは、すなわち表面の粗さをできるだけ減らすことです。ボディ塗装面を例にしてみますと、優先順位の高い順に下記のようにとなると考えられます。
1.ミリメートル(mm)~マイクロメートル(μm)レベルの平滑性
このレベルの粗い表面は、コーティング施工での平滑性を向上させることは困難です。この場合は再塗装をおこなうか、塗装面の研磨による平滑性を向上させる必要があります。
再塗装も含めて研磨をおこなうことは、経験や設備のない素人ではキレイに仕上げることは難しく、失敗した場合の回復も非常に困難ですから、専門の塗装業者さんまたは、研磨業者さんにお願いする必要があると考えます。
2.マイクロメートル(μm)・ナノメートル(nm)レベルの平滑性
マイクロメートル付近以下の粗さのある表面は、研磨とともにマイクロメートル程度の膜厚のあるガラスコーティングをおこなうことよる、平滑性向上が最も効果的であると考えます。高性能・高機能なガラスコーティングは、強固な被膜を形成するため、施工に失敗すると研磨作業が必要になりますし、素地が荒れた状態ですとガラスコーティングにより光の乱反射を助長することで、曇りのようになる逆効果も考えられます。
このため、高い平滑性を求めるガラスコーティングは、専門のコーティング業者さんにお願いすることが得策です。
ガラスコーティングは、専門業者さんに作業をお願いする必要がありますので、クルマを預けたりする時間がかかるし、相応の費用もかかります。適切な業者さんいお願いすれば、数年程度の長期間に渡って平滑性の状態を保てるメリットがあります。
もしも、数か月~半年程度の間隔でコーティングなどのメンテナンスをなさるのであれば、ガラスコーティングではなく、塗装表面状態に応じた軽い研磨作業と、シリコーンコーティングを用いて表面平滑性を高めて、良好な滑水性を得ることができます。
このような「滑水性コーティング剤」は、弊社(THエンゼル)にもシリコーンレジンを主原料とした業者様向けの低撥水コーティング剤ラインナップがあります。
長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。
さて、今回の記事でも出てきました「親水性」という言葉、コーティングの性質・状態を表す親水性ってなんでしょうか、案外イメージしにくいですよね。次回はこの気になる「親水性」について整理してみたいと思います。
(参考リンク)滑水性あるいは親水性や撥水性との関連で気になるウォータースポット(イオンデポジット)に関するまとめ記事
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